ずいぶんの記事で、おばけの授業と揶揄してしまったので、こちらも作ってみました。
【目的】命についてすぐに『ありがたい』と感じられないとしても、自分なりに『命がありがたいって何だろう?』と考え続けようとすること自体が、命と誠実に向き合おうとする姿勢。命がご先祖様から受け継がれていることを知ることを出発点に、感謝の気持ちがすぐに生まれなくてもよいことを認め、自分自身が命とどう向き合っていくのかを考え、将来『ありがとう』と思えるような生き方を探っていく態度を育てる。
【対象学年】小学3年生
【背景に入れたい要素】
- 『ご先祖様がいたから今がある』ことは認めつつ、それを“感謝の強要”にしない
- 『感謝できない・ピンとこない』子どもも含めて、内面の自由を保障する
- 命について“わかったフリ”ではなく、“考え続ける”授業にする
- 『感謝できるような人生を考える』という未来志向をもつ
- 『ご先祖様の数に感動させる』演出を中心にしない
- 『感謝できないかもしれない自分』への認知を含む発問設計
『ヌチヌグスージ』(命の祭り)
沖縄にきたばかりのコウちゃんは、島のオバアにたずねました。
『みんなで何しているの?』
『わたしたちに命をくれた、大事なご先祖様のお墓参りさぁ。』
島では春になると、親戚中が集まって、ご先祖様に『ありがとう』を伝えるのです。『ぼうやに命をくれた人はだれねぇ?』
『お父さんとお母さん』
『命をくれた人をご先祖様と言うんだよ。お父さんとお母さんに命をくれた人もご先祖様。』ぼくは、おじいちゃん・おばあちゃん、ひいじいちゃん・ひいばあちゃん….ご先祖様を数えてみると・・・もう数え切れなかった。
『ぼくのご先祖様って千人ぐらい? 百万人ぐらい?』
『命は続いてきたからねえ。誰が欠けてもぼうやは生まれてこなかった。ぼうやの命は、ご先祖様の命でもあるわけさあね。』ぼくは空に向かって、ご先祖様に届くように言った。
『命をありがとう!』
発問リスト
領域 | 狙い |
---|---|
命と感情のズレ | 感じなきゃいけない空気からの自由 |
違和感・わからなさ | わからなくていいという承認 |
関係・出会い | 命=つながりという視点 |
生きづらさ | 否定的感情を排除しない構造 |
気づき・未来 | 考え続けることを価値に |
命と感情のズレを開く問い
- 『命ってありがたいって、すぐに思える人って、いる?』
- 『“ありがたい”って、ほんとうに思えるときって、どんなときだろう?』
- 『ありがとうって言いたくないときって、ある?それってどんなとき?』
違和感・ぼんやり・わからなさを許す問い
- 『正直、ご先祖様って言われても、ピンとこなかった人、いるかな?』
- 『命ってなんだろう?って聞かれても、よくわからないって感じることない?』
- 『命について考えるって、どんな気持ちになる? 不思議? 難しい? 面倒?』
命と関係・出会いをつなぐ問い
- 『最近、だれかと出会って、なんかうれしかったことある?』
- 『このクラスに来てなかったら、話してなかった人っている?』
- 『この人と会えてよかったなって思ったとき、どんなことがあった?』
- 『たとえば、○○さんと出会って、こんなことあったな、って思い出すと、それって、生まれてきてなかったらなかったことだよね──そう思ったら、どう感じる?』
生きづらさ・否定的な気持ちに光をあてる問い
- 『生まれてきてよかった、って思えないときもあると思う。先生もね、“こんな気持ちになるくらいなら、生まれてこなきゃよかったな”って思ったことあるよ。そんなときって、どんな気持ちなんだろうね──』
- 『親に『ありがとう』って思えないときって、ある?それってダメなことかな?』
未来や『気づき』につなげる問い
- 『命を大事にするって、どんなこと、どういう意味だと思う?』
特徴
- どこから扱っても、授業が成立
- 子どもの感情や思考の位置によって、教員がどの問いを使うか選べる
- 『全員で答える問い』としても、『個別ワーク』や『対話カード』としても使える
対話カード例(命の授業版)
- 対話カードがあることで、発話量が増えるだけでなく、関係性の中で“命を考える”授業になる。
- 『答えを出す授業』じゃなく、『考えをもっていることが価値』になる
- 教員が『問いを一斉に投げる』必要がなくなり、子どもが問いを選ぶ
授業での使い方例
- 子どもに数枚のカードを配る(または机上に置く)
- ペアまたは小グループで『話したいカード』を1枚選ぶ
- 順番に話す・聞く(話さなくてもOK)
- 全体で『話してみて感じたこと』をシェア
カードの表 | ねらい |
---|---|
命ってありがたいって、ほんとうに思えるときってどんなとき? | 感情の揺れを共有 |
“生まれてこなかったら…”って考えたこと、ある? | 存在の不思議を問う |
親に『ありがとう』って思えないときってある? | 否定的感情を解禁 |
最近、出会えてよかったなって思った人いる? | 出会いと命の接続 |
“命を大事にする”って、どういうことだと思う? | 考えの深まり |
目的に合った予想反応の特徴
- 『ありがたい』『感謝』などの表面的・模範的な反応
- 『ピンとこない』『意味わからない』という違和感系
- 『でも、もしかして…』という揺れ始めの声
- 『行動に落とそうとする子』の声
- 『関係性』や『出会い』に反応する子
- 『本当の実感』をもとに語る子(少数派だけど大切)
1. 共感・感動系(模範的な声)
- 『ぼくの命って、ほんとにたくさんの人のおかげなんだと思った』
- 『ご先祖様にありがとうって言いたいと思った』
- 『命って、大事にしないといけないなって思った』
→ 一見“正解”っぽいが、『なぜそう思った?』『どんな風に大事にしようと思う?』と掘り返す余地が大事。
2. 違和感・距離感系(言いにくいけど本音)
- 『数が多すぎて、逆にあんまりよくわからなかった』
- 『ありがとうって言われても、なんかピンとこなかった』
- 『命って言われても、いつも考えてないから難しい』
→ 否定せず、『それでもいい』という受容がカギ。
3. 揺れはじめ系(考えようとしている)
- 『まだわかんないけど、ちょっと考えてみたくなった』
- 『“生まれてこなかったら”って聞いて、ちょっとだけゾワっとした』
- 『今はよくわからないけど、いつかわかるかもと思った』
→ 思考が動き始めた“途中の声”を大切に。
4. 行動に落とそうとする子
- 『今日から夜ふかししないようにしてみようと思った』
→ 命=身体を大切にするという具体的発想。身近で実践的。 - 『一生懸命勉強頑張って、自分のやりたい仕事につきたいと思った』
→ 命=未来につなげたい、自分の使命に出会いたいという志向。深い。 - 『友だちのことも大事にしたいって思った』
→ 命=他者との関係の中での価値。出会いの奇跡とつながる実感。
→ 現実と結びつけようとする姿勢。評価ではなく『どうやって?』と掘ると深化。
先生の問い返し例(さらに掘る視点)
- 『夜ふかししないって思ったの、どうしてそう思ったの?』
- 『たとえばどんなふうに勉強をがんばるの?』
- 『友だちを大事にしたいって、例えばどんな風に大事にできるかな?』
5. 出会いへの気づき系
- 『友だちと出会えたのが命のおかげって、ちょっとすごいと思った』
- 『生まれてきてなかったら、今ここでみんなと話してないんだよね』
- 『家族に出会えたことも、奇跡なんかなって思った』
→ 『命→関係→感情』への展開ができている。ここに先生の語りを重ねると深まる。
そうだね。生まれてこなかったら、大事なお友達にも出会えなかったし、みんなとお話したり、一緒にお勉強したりすることもできてない。家族に出会えたことも奇跡。ご先祖様ひとりひとりがつないだ命がみんなの命。生まれてきて身体があるから、手をつなぐこともできるし、おいしいものも食べることができる、みんなの大好きなマック食べられるし、コーラだって飲める。これ、全部奇跡なんだよ。
6. 生活のしんどさに触れる声(教員の受け止めが試される)
- 『ぼく、親にありがとうって思えない』
- 『自分の命、大切って思えないときがある』
- 『生まれてこなかった方がよかったかもって思ったことある』
→ こういう声が出たら、授業は“本物”です。 否定せず、『それでも、そういう意見が言えるってすごいことだよね』と返す。ここに先生の語りを重ねると深まる。
親にありがとうって、思えないこともあるよね。怒られたとき、イライラすることもあるし、悲しい気持ちになることもある。それって、悪いことじゃないから。
生きてたら、『あんな出会いなければよかった』って思うことだって、あるかもしれない。そして、そういうときに『命ってありがたい』なんて言われても、正直言いたくないよね。先生も言いたくないもの。
でも、それならそれでいいんだよ。大事なのは、そういう気持ちを、そのまま持ってていいって思えること。
そして、いつかその先で、『あのときのあの出会いが、実は大事だったのかもしれない』って思える日がくるかもしれない。そんなふうに、自分の命と人生を少しずつ、自分で選びなおしていけたらいいんだと思う。
どういうことかって言うと、嫌な出会いだと思っていたあの出来事も、生きていたら意味を持つことがあるってこと。それが『気づき』とも言うんだよ。大事な何かを知らせるためにあった出会いかもしれないし。それはね、生きてないと分からないことなの。
だから、今わからなくても大丈夫。そのままの気持ちを持ったままで、ちゃんと生きていれば、いつか、今はまだ気づいていない何かに気づく日が来るかもしれないから。
ワークシート項目
- 今日の話で、気になったこと・引っかかったことを書こう
- 『命ってありがたい』って、正直どう思った?
- 自分なりに、“命を大切にする”って何だと思った?
- 今はわからなくても大丈夫。『よくわからなかったこと』『考えてみたいこと』があれば書いてみよう
先生へ:生徒への促し
命って、ありがたいってすぐに感じられなくてもいいんだよ。大事なのは、『命って、なんだろう?』って思ってみること。
それは、命とちゃんと向き合おうとする、あなたの姿そのものです。これからも、そんなふうに『わからなさ』と一緒に歩けたらいい。
みんなが今日考えたように、ご先祖様の誰か一人でも欠けていたら、今の自分はいなかったかもしれない。
つまり、今ここに自分がいること自体が、たくさんの命がつながって生まれた“奇跡”みたいなことなんだよね。
でもね、それだけじゃない。生まれていなければ、今出会っている友だちにも出会えていない。出会えたから、ケンカも、笑ったことも、心が動いたことも起きた。
出会いがあるって、奇跡なんだよ。そして、その奇跡は『命がある』っていうことから始まってる。
けれど、奇跡だとか言いたくない出会いもあるかもしれない。そのことも命を大切に生きていたら、意味を持って教えてくれるのがまた出会いなの。だから出会いは全部大事なの。
だから、命は、全部、奇跡なのかもしれないね。
だから今日の授業は、『命ってすごいよね』と思う時間じゃなくて、『命って、なんだろう?』って、これからも考えていたいって、そう思える時間だったらいいなと思います。
語りの工夫点
最後に『かもしれないね』と結ぶことで、子どもが考え続けられる余白を残す。
命 → 自分の存在 → 出会い → 経験 → 命の意味へと、命を『関係と時間の中で捉える』構造。『ありがたさを感じなさい』じゃなく、“奇跡という問い”を手渡す転換です。
生徒の『わからなさ』を許す
子どもが『ピンとこない』と言った瞬間、“まだわかってない”とか“未熟だ”と見なされることがあります。
だから子どもは、ときに『正しい言葉』で“わかったフリ”をしてしまう。
でも実際には、『命が大切』とか『生まれてきてよかった』なんて、そんなに簡単にわかることじゃない。
命があることそのものよりも、命があったから出会えたこと、心が動いたこと──そんな“出来事”の中にこそ、命の意味が宿るのかもしれない。
『ピンとこない』『よくわからない』という感覚を、出発点として認める。感謝を強制するのではなく、“生きているってどういうことだろう”という問いをひらく。
そういう授業であれば、子どもは『わかることを言わなきゃ』ではなく、『考えてもいいんだ』『感じてなくても、それでいいんだ』と、思えるようになるかもしれない──
そんな期待を込めて、この教材をつくりました。
この授業では、子どもたちが『命ってなんだろう?』と自分の言葉で考えはじめることを大切にしています。だから、最後に『こう思えたらいいよね』『命ってやっぱりありがたいよね』と“まとめてしまう”必要はありません。子どもたちが『まだわからない』『モヤモヤしたままでもいい』と思えたら、それはもう十分に価値ある授業です。わかったフリをさせず、『わからなさ』と一緒にいられる空気を、ぜひ残してください。
例:ご先祖様がいたから、今のわたしがいるって、心から思える日が来たらいいなって、先生は思うよ。
でも、今すぐそう思えない人もいるかもしれないし、それも大切な気持ちだと思う。先生は、教員になるのが夢で、こうやって、みんなに出会うことができた。だから、ご先祖様がいたから今のわたしがいるって、少しだけど分かる気がするのよ。だけど、もっとそう思えるように、このクラスでみんなと一緒にがんばろうと思ってます。
この教材に内在する思想的フレーム
思想・理論 | 文化圏 | 教材での活用 | キーワード/ねらい |
---|---|---|---|
無為自然(老荘思想) | 東洋 | 子どもの『ピンとこない』『わからない』感覚をそのまま肯定 | 感情を無理に方向づけず、『あるがまま』を尊重する |
縁起(仏教) | 東洋 | 『誰が欠けても今の自分はいない』など、命のつながりの実感 | 自己を“関係性”でとらえる視点 |
アドラー心理学 | 西洋 | 感謝や理解を『させる』のではなく、子ども自身が選べるよう支える | 強制ではなく“選び取る力”を育てる |
現象学的アプローチ | 西洋 | 『ありがたさ』は概念として与えるのでなく、経験から感じる | 子ども自身が意味をつくる“体験ベースの理解” |
道徳補強教材について

当ブログの文章・図解・教材などを授業の補足などで使いたい場合は、必ず事前にご連絡ください。ご希望の内容や使用目的によって、個別にご相談させていただきます。
『参考にしたい』『使わせてもらいたい』というお気持ちはとても嬉しいです。その分、きちんと一声かけていただけると安心して対応できます。
子どもが、自分の将来を“他人の正解”ではなく、“自分の意志”で考えられるように。
そんな願いから、道徳の補足教材を個人で制作しています。感謝の強要や模範的な答えではなく、『自分の感じ方』や『自分の問い』から出発し、自分の人生を自分で意味づけていけるような授業にできたらいいなと考えています。
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