【道徳補強教材】『ゾウのアヌーラ』から学ぶ、思いやりと支え合いの本質

教育に求めることができないって前の記事で書いたんですが、わたしならこんな感じの指導になるかなぁ?というのを作ってみました。

【目的】単なる感動や美談で終わらせず、『支える行動』がどうやって成立するかを考える。背景にある条件や気持ち、環境を知り、自分にとって“思いやる”とはどういうことかを考える。
【対象学年】小学1年~6年(発問と話し合いを年齢別に調整) 。
【背景に入れたい要素】自然界と動物園の違い、思いやりが生まれる“環境”の重要性、マズローの欲求5段階説の基本的な考え方。

目次

『ゾウのアヌーラ』で本当に伝えたいことは?

『ゾウのアヌーラ』は、病気で立てなくなったゾウを仲間たちが何日もかけて支え続け、命をつないだ話です。授業では『思いやりって大事だね』『やさしいゾウたちだったね』という感想が出るかもしれません。

もちろんそれも大切ですが、このお話には『やさしさとは何か?』『どうして支えることができたのか?』を考えるヒントがたくさんあります。

  • 命を支える“余裕”と“環境”について考えよう
  • ちょっとだけ“心のしくみ”を知ってみよう(アブラハム・マズローの考え方)
  • 子どもたちに渡したい問いと補助解説(先生用コメントつき)
  • さらに深めたい視点:行動の奥にある“もうひとつのやさしさ”

① 命を支える“余裕”と“環境”について考えよう

自然の中では、いつも仲間を助けられるとは限りません。 ときには、自分が生きのびるために、誰かを助けることができない場面もある。

たとえば、子ゾウがケガをして動けないときに、ライオンなどの敵が近づいてきたらどうなるでしょう?母ゾウや群れの仲間が、子どもを守ろうとする場面もありますが、場合によっては、自分や群れを守るために、泣く泣くその場を去ることもある。

実際、母ゾウが新生児の子ゾウを守るためにライオンに突進する様子が捉えられた記録もあります。 また、ライオンの攻撃を阻止するために母ゾウが果敢に介入する場面も報告されています。

しかしながら、乾季などの厳しい環境条件下では、母ゾウが生きのびるために、子ゾウを置いて移動せざるを得ない場合もあるそうです。 双子の子ゾウのうち一頭を守るために、もう一頭を見送るという厳しい判断をすることもある。

一方で、子ゾウが命を落としたあと、母ゾウがその場を何時間も離れず、動かなくなった子ゾウのそばを離れられなかったという事例もあるようです。 水路に落ちた子ゾウを守ろうと、ライオンの群れに囲まれながらも、必死に子を守ろうとする姿も確認されています。

このように、母ゾウの行動は状況によって大きく変わり、 助けることができる状況もあれば、そうでないときもある。

でも、アヌーラは助けてもらえました。 なぜでしょう?

それは、『動物園』という場所だったからかもしれません。

食べ物や水は足りていて、外の敵におそわれることもなく、安全な場所にいたからこそ、タカコとガチャコはアヌーラのそばにいれた。

つまり、『思いやる気持ち』は、そうできる“場所”や“時間”や“心のゆとり”があることで、はじめて行動にうつせるものでもある。それは、人間もゾウも同じなのかもしれない。

② ちょっとだけ“心のしくみ”を知ってみよう(アブラハム・マズローの考え方)

マズローという人は、人の気持ちの順番を『5つの階段』に分けて考えました。

  1. お腹がすいていない・ねむれる(体が元気)
    → ごはんがちゃんとあって、よく眠れること。
  2. あんぜん(こわくない・安心できる)
    → まわりに怖いことがない、安心してすごせること。
  3. なかまがいる(友だちや家族とのつながり)
    → ひとりじゃない、だれかとつながっている感じ。
  4. 自分に自信がある(できた!って思える)
    →がんばったことをほめてもらえたり、自分でも『うまくいったな』と思えたりすること。
  5. 自分らしく生きる(やりたいことをがんばれる)
    → 『こうしたいな』って気もちが動いたときに、行動できること。

この階段の下のほうがちゃんと満たされていると、上のことをがんばれるという考え方です。

タカコとガチャコは、1~3のところが守られていたから、アヌーラを思いやる行動(5の自分らしい行動)につながったのかもしれません。

① 生理的欲求(おなかがすいていない・眠れる)
→ 動物園では食事や水が与えられ、寝場所もある。
② 安全欲求(こわくない・安心できる)
→ 天敵がいない、囲われた安全な環境。

この2つが満たされているからこそ、

③ 社会的欲求(所属と愛)
→ 群れの仲間と一緒にいる安心感。仲間とのつながりを感じられる。

そのうえで、

④ 承認欲求⑤ 自己実現欲求
→ 『自分のしたいことをする』『仲間を支えたい』という自発的行動。

やさしくしたい気持ちは、気持ちだけじゃなく『まわりの環境』や『そのときの自分の状態』でも変わる。

③ 子どもたちに渡したい問いと補助解説(先生用コメント・問い返し集)

タカコとガチャコは、どうしてアヌーラを支えられたんだろう?

(安心してすごせる場所にいたから、できたのかもしれないね)
先生へ: 行動だけでなく、行動を可能にした“条件”や“環境”を子どもと一緒に考えてみましょう。思いやりには背景があるという視点を伝える入り口になります。

先生のコメント例
“やさしい行動”ができた背景には、安心できる環境や安全が保障されていたことがあると気づけたのは、とても大事な視点です。“やさしさ=気持ち”だと思いがちではあるけれど、“気持ち”が“行動”に変わるには、場所や状況も大きく関係しているんだよね。だからこそ、“なぜ支えられたのか”を考えるときに、気持ちだけじゃなく、まわりの条件にも目を向けることが、思いやりの本質に近づく第一歩になるんだよ。

問い返しの例

  • タカコたちが支えられたのって、どんな環境だったからだと思う?
  • もしタカコたちが、外でこわい動物に囲まれていたら、同じことができたかな?
  • “やさしさ”って、いつでもどこでも同じように出せると思う?どうして?
もし野生だったら、同じことができたかな?

(こわい動物におそわれたら、ちがう行動をしたかもしれないね)
先生へ: 動物の行動も、状況次第で変わるという自然界の現実に触れることで、『支えなかった選択』への理解も広がります。現実と理想の違いに目を向けることができます。

先生のコメント例
やさしさは、すばらしいこと。助けるって、良いことだよね。でも──“きれいごとだけ並べて生きる”のって、ある意味ラクでもあるの。現実には、やさしくしたいのにできないときもある。助けたいけど動けないこともある。

今日、“思いやりの気持ちがあっても、行動できないことがある”って知れたこと、それ自体がすごく大きな気づきなんだよ。だって、人には、その人にしか分からない背景がある。その全部を知ることは、他人にはできない。

だからこそ、『その人にはその人の事情があるかもしれない』っていう視点を持っておくこと。それが、自分を守ることにもなるし、他人を裁かないやさしさにもつながっていくと思う。』

問い返しの例

  • 自分がこわい場所にいたら、同じことができると思う?
  • どんなときに、助けたいけど動けないかもしれないって思う?
  • 動物園と野生って、具体的にどう違う?
自分の生活で、だれかをやさしくしたいと思ったとき、どんなときだった?

(心にゆとりがあるときは、人にやさしくしやすいよね)
先生へ: 思いやりが“心の余白”とつながっていることに気づける問いです。やさしさは無理にがんばるものではなく、自然に出てくるときがあることを伝えましょう。

先生のコメント例
やさしさは『がんばって出すもの』ではなく、ふと出るものだという気づきはとても大切です。“心に余裕があるときはやさしくできる”という体験から、やさしさと自分の状態との関係を見つけていけるといいね。自分の気持ちとつながってこそ、ほんとうの意味で“自然なやさしさ”が出ると思うよ。

問い返しの例

  • やさしくなれたとき、自分はどんな気持ちだった?
  • やさしくしたいと思えなかったときは、どんなとき?
  • “無理にがんばらなくても出てくるやさしさ”って、どんな感じ?
支える側の人は、ずっとがんばり続けて大丈夫かな?

(支える人にも休むことや、自分の元気が必要だよね)
先生へ: 人を支えすぎて自分が疲れすぎないように(自己犠牲型ギバー)、自分の心や体を守ることの大切さを伝える問いです。やさしさを持ち続けるためには、自分が満たされていることが前提。

自分が満たされたあとに、その幸せをまわりにもおすそ分けできたとしたら? 子どもたちに、『そんな社会って、どんな世界だろう?』と問いかけてみてください。

先生のコメント例
支えることは、たしかにすばらしいこと。でもね──“支える側”がずっとがんばり続けると、どこかで限界がきてしまうんだ。

だから先生は思うの。支えるっていうのは、ただ“がんばり続けること”じゃなくて、“どう支えるか”を選ぶことでもある。

ときにはそばにいる、手を差し伸べる、話を聞く、そして自分も守る。

そういう“支える側としての決断”も、ほんとうはすごく大切なんだよ。

思いやりを続けていくには、自分の心や体がちゃんと満たされていることが前提。それがあってはじめて、人のことも大切にできる。

そしてね、“助けて”って言うことも、実はすごく勇気のいることなんだ。それはただ誰かに頼るんじゃなくて、“相手を信じること”だし、自分の弱さを相手に渡すという、大事な決断でもある。

だから──“守る”ことも、“助ける”ことも、“助けてもらう”ことも、どれもみんな、勇気がいるし、ちゃんと選ぶものなんだって、先生は思ってる。

そしてその選択の中には、必ず“自分を大切にすること”も含まれていてほしい。それが、ほんとうの意味で“やさしさを続けられる人”になるということだからね。

問い返しの例:

  • 支える人って、どんなときに疲れそう?(支えている人が応えてくれないときetc、そこでもう一度『支える』ということを立ち止まって考えることも大事)
  • 自分を大切にするって、どういうことだと思う?
  • 先生だって疲れるよ。そういうときどうしてると思う?
ほめられたいから、やさしくするのって、どう思う?

(やさしくしたことで、ありがとうって言ってもらえたら、うれしくなることもあるよね)
先生へ: 動機がたとえ“ほめられたい”だったとしても、その結果だれかが助かったなら、そのやさしさには意味があります。やがて、その喜びが“もっと誰かのために”と広がっていく可能性があることを、やわらかく伝えてください。

誰かを助けたいという気持ちの中には、『賞賛されたい』『認められたい』という動機があっても構いません。それは悪いことではなく、その経験を通じて“やさしくする喜び”が育っていきます。

ただ、そこ(賞賛)をゴールにするのではなく、賞賛されたうれしさがやがて“分かちあえるやさしさ”へと変わること。そのプロセスを肯定的に伝えてください。それが自己実現になります。

『褒められたいから、優しくするわ!』という言葉があったとしても、冗談や笑いになれば、それはそれで正解。『その行動で誰かが助かる』なら、動機が自己側でも、行動の意味は十分にあります。

先生のコメント例
やさしさの“きっかけ”が『ほめられたい』『認められたい』でも、それで誰かが助かったなら、立派なやさしさだと思う。動機はどうであれ、助けて、助けられることに意味があると先生は思うから。ただ、それ(褒められたい)を“ゴール”にせず、やがて“人と分かち合う気持ち”に育っていくともっと素敵じゃないかな。

たとえばね、『ほめられたいっていう気持ちで誰かを助けたとしても──それも、その人なりに決断して出した行動でしょ?何も考えずに動かない選択よりも、結果が動くでしょ?

その結果、誰かが助かったなら、それって、もうすごく立派なことじゃない?正解じゃないよ、先生は、そう思ってるのよ。

問い返しの例

  • ありがとうって言われたとき、自分はどう感じた?
  • ほめられるって、どういうときにうれしい?
  • “自分のため”と“相手のため”って、どう違うと思う?
やさしくしないという選択は、わるいことなの?

(その人なりの理由があっての選択かもしれないね)
先生へ:『支えなかった』行動にも、その人なりの思いや背景があることを想像する練習になります。子どもたちにとって、“行動”だけで判断せず“気持ち”をくみ取ろうとする姿勢を育てる視点です。

先生のコメント例
“やさしくしない”という行動にも、その人なりの思いや事情があるかもしれない。『やらない=わるい』という判断をいったん止めて、“どうしてそうなったのか”を想像する視点はとても大切。それは“思いやり”の、もう一段深いかたちです。

問い返しの例

  • やさしくできないときって、どんなときだと思う?
  • もし自分がやさしくできなかったら、どんな気持ちになる?
  • “やさしくない”って、ほんとうに悪いことかな?

④ さらに深めたい視点:行動の奥にある“もうひとつのやさしさ”

支えるって、いろいろな形があるよね?助けたい・助けて欲しい気持ちがあったけど、何もできなかったこと、何もしてもらえなかったことってある?

(それって、本当に“なにもしなかった”“なにもされなかった”のかな?)
先生へ:支える行動には『そばにいる』『手を貸す』だけではなく、『見守る』『信じて待つ』などのかたちもあります。何かをしないこと=無関心とは限らないことに目を向けさせましょう。

先生のコメント例
“できなかった”“しなかった”って、すごく大きな経験だよね。声をかけられなかった。かけなかった。何も言えなかった。言わなかった。そういう“しなかった”“してもらえなかった”という思いの中にも、ほんとはいろんな気持ちや葛藤があるよね。

大事なのは、自分や相手を責めることじゃなくて──
『相手はなんでそうしたんだろう?』
『自分はどんな気持ちだった?』
って、双方の気持ちにちゃんと目を向けてみること。

たとえばね、『言わなかった』という決断の中にも、やさしさがあることがある。気づかれたくない気持ちを守ったり、相手の心を思って言わなかったり。そういうことも、きっとあるんだよね。

だからこそ、例えば自分がしたその決断で、責められるようなことがたとえあったとしても、自分の気持ちや思いを、否定せずに大事にしてほしい。“何もしなかった”ように見えるその中に、あなた(相手)なりの静かなやさしさがあることも、きっとあるよね。全てがそうとは限らない、こういう考え方・見方もあるよっていう、ひとつの例だからね。

問い返しの例

  • 声をかけられなかったとき、自分はどう思った?
  • 何もできなかったけど、心の中ではどんなことを考えてた?
  • “できなかった”ことに、意味はあると思う?
もしアヌーラが“もういいから行って”って言ったら、どうする?

(“助けたい”って気持ちがあっても、それを受けとらない人もいるかもしれないね)
先生へ:誰かを思う気持ちがあっても、相手には相手の考えや気持ちがあります。支えようとする側の気持ちだけで動くのではなく、相手の気持ちや選びたいあり方を尊重することも、大切な『ともにいる』のかたちです。“やさしさ”が独りよがりにならないように、関係の中でどう寄り添えるかを考える視点を育てましょう。

先生のコメント例

相手が“もういい”って言ったとき、どうしたらいいかって迷うよね。
先生もそういう場面に出会うことがあって、そのときは“お節介かもしれないけど、私がそうしたいからやってるの”って伝えることもあるの。
つまり、“相手がどう思うか”を聞いたうえで、それでも自分がどうしたいかを、自分で選ぶってこと。

去るも、寄り添うも、どちらも難しい選択だけど、自分の状態と、相手の気持ちを見たうえで、“今、私はどうしたいか”を選べたら、それでいいと思ってる。

例えば後で、その決断を自分が後悔しないかどうか、そういう目線もひとつの答えだと思ってるんだ。
その視点も、正解を探す手がかりのひとつだと思う。

問い返しの例

  • やさしさって、どんなふうに届けたらいいと思う?
  • 『もういい』って言われたら、どんな気持ちになる?
  • 自分がつらいとき、『ひとりにして』って思ったことある?
ゾウたちって、『こうしたいな』って思ってたのかな?それとも、たまたまそうなったのかな?

先生へ:動物たちの行動を人間の気持ちに当てはめすぎず、『こうかもしれないな』と想像する力と、『本当の気持ちはわからないかもしれない』という姿勢を両方持つことが大切です。これは“想像力”と同時に、“わからなさを受けとめる姿勢”を育てる問いでもあります。自分の見方にとどまらず、『そうかもしれないけど、違うかもしれない』と考えることが、やがて他者や世界に対して開かれた心=謙虚さにつながっていくかもしれません。

先生のコメント例

動物に“気持ちがあるのか?”って考えること、『それって意味あるの?』って思う子もいるかもしれないね。

でもね、“わからないものについて考える”って、とても大事なことなんだよ。

『そうかもしれないけど、違うかもしれない』──そうやって、決めつけずに想像してみること。それが、他の誰かを理解しようとする出発点になるの。

人同士でも、あるよね。他人のことって、本当のところは分からない。なのに『きっとこう思ってる』とか『こういう人なんだ』って、決めつけてしまうことって、ある。

でも実はね、『相手のことは相手にしか分からない』って思えることも、立派なやさしさなのよ。

だからこそ、『そうかもしれないけど、違うかもしれない、だけど、わたしはこう思おう、あえて、こう思いたい。』──そんなふうに思いながら相手と関わっていけたら、きっとすごくやさしい世界がひろがると先生は思ってる。無理にじゃなくて、できないときはできないよ。できたら、、、だよ。

問い返しの例

  • ゾウが『やさしい気持ちで動いた』と思うのは、なぜ?
  • 『たまたまそうなった』って、どういうことだと思う?
  • 自分とちがう考え方・感じ方って、どうやって想像できるかな

このように、『問い→子どもの補助→先生の視点』をセットで活用することで、子どもたちにとって深い思考のきっかけと安心できる導きが両立できます。
正しさや感動だけを押しつけず、『なぜこの行動ができたのか?』『自分はどんなときに動けるのか?』という問いを通して、思いやりの本質に触れていく授業になることを目指せたらいいと思っています。

学年別:『ゾウのアヌーラ』を深めるための指導ポイント一覧

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学年主なねらい発問・問いかけ例補足する伝え方の工夫
低学年(1~2年)『やさしいってうれしい』『自分もしたい』を育てるどうしてゾウさんたちはアヌーラをささえたのかな?
だれかに『ありがとう』って言ってもらったことある?
『おねえちゃんだから』ではなく『大切だからやさしくしたい』という気持ちを肯定。『立場』ではなく『思い』から出るやさしさを伝える。安心できる環境の中でこそ、思いやりは自然に生まれることを伝える。
中学年(3~4年)気持ちの違いや背景を想像する力を育てるアヌーラの話、野生だったらどうだったと思う?
やさしくしなかったら、それはダメなこと?
思いやりには“余裕”や“安心”という土台が必要なことを伝える。『そのときどんな気持ちだったんだろう?』という想像を促し、支えなかった選択にも意味があることに触れる。
高学年(5~6年)『行動の背景』『自己と他者の間の選択』を考える支える側のゾウたちは、つかれなかったのかな?
ほめられたくてやさしくするのって、どう思う?
助けることに上下関係はいらないという視点を伝える。『賞賛されたくてやさしくする』こともスタートとして肯定し、それが“分かちあいたい”思いやりへ育っていく可能性を考えさせる。

指導案

低学年:“土台”の時期をじっくり育てる
この時期って、『やさしい=うれしい』『ありがとう=うれしい』みたいな感情と行動のつながりを経験として染みこませていく時期。ここが薄いと、上の学年に進んだときに『理屈は言えるけど、行動が伴わない』子になる可能性もある。丁寧に時間をかける時期と判断

中学年・高学年:“自分以外”との関係性を育てる
中学年以降って、『自分以外の人も“感じてる”』ということに気づき始める段階。でもそれはまだ不安定と感じるので、中学年は『気づきの準備』として整理しつつ、本格的にマズローや構造化思考を入れるのは高学年からでも良いと判断。

  • 低学年向け:マズローの欲求5段階(語りかけ補強版)
  • 高学年向け:マズローの欲求5段階(内省強化版)

① 低学年向け:マズローの欲求5段階(語りかけ補強版)

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欲求段階子ども向けの例と問いメッセージ
①からだが元気(生理的欲求)『おなかがすいてたら、やさしくできる?』
『ねむいとき、ひとのこと考えられる?』
自分がしんどいとき、やさしさは出しにくい
②こわくない(安全の欲求)『まわりがこわかったら、ひとにやさしくできる?』安心してると、人のことにも気づける
③なかまやつながり(所属の欲求)『友だちがいると、どんな気もち?』
『やさしくされたとき、どう思う?』
つながりがあると、やさしさは循環する
④ほめてもらう(承認の欲求)『ありがとうって言われたら、うれしくなる?』
『ほめられたいから、やさしくするってどう思う?』
動機が“ほめられたい”でもいい。それも育ち
⑤じぶんらしく動く(自己実現)『自分からやさしくしたくなったことある?』“やさしさ=自分らしさ”であっていい

例:きょうだい関係・立場・やさしさ

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視点子どもへの問い例伝えたいこと
立場と期待『おねえちゃんだからやさしくしなさい』って言われたら?やさしさは“立場”で決まらない
関係性と思い『きょうだいってどんなときに大切って思う?』大切だからやさしくしたい=“思い”が出発点
自分の気持ちの尊重『いまはムリって言いたくなるときある?』無理なときは断っていい、自分を大事にすること
やさしさとよろこび『やさしくして“ありがとう”って言われたらどんな気持ち?』賞賛でも行動がよかったらそれでいい、それが育つ
上下じゃない“支え合い”『助けるって、えらい人だけがすること?』やさしさに上下はない。気持ちが動いたらそれでOK

② 高学年向け:マズローの欲求5段階(内省強化版)

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欲求段階子ども向けの問いメッセージ
① 生理的欲求(からだが元気)『体調が悪いとき、人にやさしくする余裕ある?』自分が満たされていないと、他者に意識を向けるのは難しい
② 安全の欲求(こわくない)『まわりにこわい人がいたら、やさしさって出せる?』
『“大丈夫”って思えるとき、どんな行動ができる?』
安心感は、行動のベースになる。やさしさも“安全地帯”から
③ 所属の欲求(なかま・つながり)『誰かの役に立ちたいって思ったことある?』
『仲間がそばにいると、どんなふうに感じる?』
つながりがあると、“自分の行動が誰かのためになる”という実感が芽生える
④ 承認の欲求(ほめられる)『ほめられたくて、やさしくしたことある?』
『それってダメなことだと思う?』
動機が“賞賛”でも、誰かを助けたならその行動には価値がある。そこから次の段階が育つ
⑤ 自己実現(じぶんらしく動く)『やさしさって、どんなときに“自分らしい”って感じる?』
『誰かのために動けたとき、どんな気持ちになる?』
“してあげる”ではなく、“自分がしたいからする”やさしさへ。自分の価値観で行動する段階へ

承認→自己実現の流れは、『評価される自分』から『意味を感じる自分』への移行。

『やらなきゃ』から『やりたい』へ。賞賛された嬉しさは“きっかけ”であり、“ゴール”ではない。

マズローの欲求段階と問いの対応表(小学1〜6年対応)

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欲求段階(下から順)概要子ども向けの問い補足:ねらいと伝え方
① 生理的欲求・安全の欲求『じぶんが元気でいる』『こわくない』が大前提タカコとガチャコは、なんで支えられたの?
こわい動物がいたら、どうしてた?
安心できる環境だからこそ、やさしさが行動になると伝える。無理して支える必要はないということも含む
② 所属と愛の欲求仲間でいたい、つながっていたい気持ちアヌーラは、ひとりじゃなかったね。どう思った?
だれかがそばにいるって、どんな気持ち?
支え合う関係性の価値を感じ取る。自分も誰かとつながっていたいという感覚を育てる
③ 承認欲求誰かに『ありがとう』と言われたい、認められたいほめられたくてやさしくするのって、どう思う?
『ありがとう』って言われたとき、どんな気持ち?
賞賛や認められたい気持ちを否定せず、その先の“共有”に育っていく可能性を示す
④ 自己実現欲求『自分らしさ』でやさしさを行動にする支える人って、どんな人かな?
自分にできそうな“やさしさ”ってなんだろう?
自分ができるやさしさを考え、実践につなげる。行動の主体性を大切にする問い
⑤ 超越的欲求(貢献・分かち合い)自分の幸せを他者にも広げたいという願い自分が幸せだったら、その気持ち、だれかにわけたくなる?
みんながやさしくできたら、どんな世界?
『やさしさを社会に広げる』という未来の問い。分かち合いが“やさしさの循環”になると気づかせる
  • マズロー自己理解ワークシート案(低学年1・2年)
  • マズロー自己理解ワークシート案(中学年~高学年)
  • マズローの5段階は年齢による知識差よりも、経験や実感の差で理解が深まる

① マズロー自己理解ワークシート案(低学年1・2年)  

①【おなかがすいてた・ねむかったとき】

『おなかがすいてた』『つかれてた』そんなとき、どんな気持ちだった?
そのとき、人にやさしくできたかな?できなかったかな?

  • イライラした
  • ぼーっとしてた
  • やさしくできなかった
  • それでもちょっとがんばれた

どんなことがあった?書いてみよう:

②【あんしんできたとき】

だれかがそばにいてくれるとき、心強くなれることない?
そのとき、いつもよりも勇気がだせるような感じがしない?そんなこと、ある?
あるなら、どんなことができた?

  • 自分から『どうしたの?』ってきけた
  • いっしょにいてあげられた
  • 手伝ってあげたいと思えた

そのときのことを思い出して書いてみよう:

③【“ともだち”って思えたとき】

『この人といると、ほっとする』『いっしょにいると、たのしい』そんな友だち、いる?
その子とどんなことをしたとき、うれしかった?たのしかった?

思い出したことをかいてみよう:

④【『ありがとう』って言われたとき】

『すごいね』『ありがとう』って言ってもらえたとき、どんな気もちだった?

  • うれしかった
  • またやってみたいと思った
  • ちょっとはずかしかったけど、うれしかった

どんなときだった?どんなことをした?:

⑤【やさしくしたときの気もち】

『ほめられたかったから、やさしくした』ってことある?
それって、ダメかな?どんな気もちだった?

かんがえてみよう:

⑥【『自分からやさしくした』こと】

だれにも言われなかったけど、『力になりたい』と思って動いたこと、ある?

そのときの気持ちをかいてみよう:

② マズロー自己理解ワークシート案(中学年~高学年)

①【自分に余裕がなかったとき】

たとえば『おなかがすいてた』『つかれてた』……そんなとき、自分は人にやさしくできたかな?できなかった?
『できなかった経験』も書いてみよう。

自分の経験:

②【安心できているときにできたこと】

安心しているとき、自分はどんなことができた?たとえば『自分から話しかけられた』『“どうしたの?”って聞けた』など
どんなときに、そんなふうに行動できたかな?

安心できたとき・できたこと:

③【仲間を感じたとき】

『この人といると、ほっとする』『役に立ててうれしかった』そんな経験ある?
どんなときに“仲間”って思えた?

仲間を感じたエピソード:

④【ほめられてうれしかったとき】

『ありがとう』『すごいね』って言われたとき、どんな気持ちだった?
なぜ、ほめられてうれしかったと思う?

どんなとき?どんな気持ち?/うれしかった理由:

⑤【ほめられたくてやさしくしたことはある?】

『ほめられたかったから、やさしくした』って思ったことある?
そのとき、どうして“ほめられたい”って思ったのかな?

理由を考えてみよう:

⑥【自分からやさしく動けたとき】

『こうしたい』と思って動いたとき、自分はどんな気持ちだった?
それは、自分らしさにつながっていたと思う?

自分からやさしくした経験:

③ マズローの5段階は年齢による知識差よりも、経験や実感の差で理解が深まる

『問いそのもの』は共通でも、答えるときの視点や言葉の厚みが年齢で変わるだけです。“書かせ方”と“話し合い方”で調整できる。

むしろ“共通化”することで『自分の変化』に気づくことができると考えます。

同じ問いを毎年ふりかえることで、『去年と違う答え』『考え方の成長』に気づけます。これは自己理解や非認知能力の育成にとって大きなプラスになると推測します。

この教材に内在する思想的フレーム

思想・理論文化圏教材での活用キーワード/ねらい
無為自然(老荘思想)東洋『支えなかった』選択にも意味を見出す/やさしさの“自然な行動”として肯定やさしさは義務ではなく、“湧き出るもの”としてとらえる
縁起(仏教)東洋行動や選択に“つながり”の視点を入れる/『今できなかった』も未来につながる可能性として見る思いやりや支援も、関係性や環境に支えられてこそ
アドラー心理学西洋『ほめられたい』『ありがとうって言われたい』も正当な動機として扱う行動の背景にある“承認欲求”を肯定し、成長につなげる
現象学的アプローチ西洋やさしさは“実感”から立ち上がるものであり、体験の中で見つける表面的な正解ではなく、気づきや感情を“そのまま”深掘りする構成
マズローの欲求5段階西洋『支える行動は、安心やつながりなどの土台が満たされて初めて可能になる』と図解で可視化思いやり=心の余裕×環境条件という構造的理解
スピノザ的視点(感情の理解)西洋『そのときの自分にとっては自然な反応だった』と位置づけることで、自己受容と他者理解の土台をつくる。どんな感情にも理由がある/『やさしくできない』という感情も否定せず、理解の対象とする

当ブログの文章・図解・教材などを授業の補足などで使いたい場合は、必ず事前にご連絡ください。ご希望の内容や使用目的によって、個別にご相談させていただきます。

『参考にしたい』『使わせてもらいたい』というお気持ちはとても嬉しいです。その分、きちんと一声かけていただけると安心して対応できます。

子どもが、自分の将来を“他人の正解”ではなく、“自分の意志”で考えられるように。

そんな願いから、道徳の補足教材を個人で制作しています。感謝の強要や模範的な答えではなく、『自分の感じ方』や『自分の問い』から出発し、自分の人生を自分で意味づけていけるような授業にできたらいいなと考えています。

このページのテキストは見本です。

ご希望があれば、テキスト制作のご依頼や補足資料のご相談も受け付けています。内容やテーマに応じて丁寧に対応しますので、お気軽に声をかけてください。

どうぞよろしくお願いいたします。

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